開催報告:JpGU 2025 ユニオンセッションU-08/U-15

日本地球惑星科学連合(JpGU)2025年大会にて、二つのユニオンセッションに、当研究室からワン・早川がコンビーナ(兼スピーカー)として、Zulhilmiがスピーカーとして参加しました。

(conveners: 早川 裕弌, Vincent Tong, 小口 千明, Ting Wang)

この2つのセッションは連動していて、U-15が日本語で個人としての、U-08が英語で組織としての取り組みについて、それぞれ焦点が置かれました。これらのセッションを通して、地球科学分野の国際化には、言語の壁を乗り越える多言語対応はもちろん、文化的な価値観の違いを理解し尊重すること、そして教育システムや組織のあり方を見直すことが不可欠であることが示唆されました。AIなどの技術を有効活用し、誰もが科学にアクセスできる環境を整備することが、今後の重要な課題となると締めくくられました。

以下は、セッションの内容の簡単なまとめです。

U15

基調講演

  • 島村 道代(大阪大学)「地球惑星科学におけるJpGUとAGUの各学会員の志向性・意識の違い」
    • 日米の地球科学コミュニティにおけるアンケート調査結果が報告されました。課題解決型か真理の探求型かについて、AGUの参加者はJpGUよりも「課題解決型」を重視する傾向が強く、特に若い世代でその差が顕著でした。また、言語の壁があり、日本語のみで発信された情報はグローバルに読まれにくく、日本の事例が伝わらない現状が課題として挙げられました。

招待講演

  • ゴメス クリストファー(神戸大学)「Educating and Learning in Japan – Escaping Multi-waves Post-colonialism」
    • 日本の教育システムと研究の国際化について、日本の教育システムが、外部から強制的に導入され、その後も独自の法律で「日本らしさ」を維持しようとした歴史的背景が解説されました。これにより、国際的な教育システムとの間に溝が生じ、国際化を困難にしていると指摘されました。
  • Azim Zulhilmi(北海道大学)「Immersive Virtual Reality lecture for Geoscience Education: Usability and Motivational Impact on International Middle School Students」
    • 中学生を対象にしたVRを活用した地球科学教育の実践例が報告されました。VRは没入感が高く、生徒の関心やモチベーションを高める効果があることが示されました。一方、VRの導入には時間やコスト、そしてカリキュラムへの組み込みの難しさといった課題も存在します。
  • ワン ティン(北海道大学)「Geoscience for enhancing the functions of protected areas: A discussion on the importance of multilingual materials」
    • ジオパークなどの保護地域におけるジオ遺産の科学的・教育的活用について論じられました。地球科学者がジオ遺産の価値を解釈し、教育やツーリズムに貢献する重要性が強調されました。また、日本語のみの解説資料が多い現状を問題視し、外国人訪問者や留学生のためにも多言語対応が不可欠であると述べられました。
  • 佐藤武彦(宇宙航空研究開発機構)「アジア大洋州地域における地球科学の推進」
    • アジア・オセアニア地域を代表する学会AOGSの事例が紹介されました。AOGSにはアジアを中心に多様な国や地域から参加者が集まり、多様なコミュニティを形づくっています。学会運営は英語を共通語としつつも、アウトリーチ活動においては現地の言語を使用することが重要であるという考えが示されました。

U08

基調講演

  • 高橋 幸弘(北海道大学)「The challenge of multilingualism in science meeting」
    • JpGUでは、近年外国人参加者が増加しているものの、英語と日本語の二言語運用が課題となっています。そこで、マイクロサテライトの開発を通した、開発途上国の学生とマイクロサテライトを共同開発する自身の経験から、科学コミュニケーションにおける多言語対応の重要性を強調しました。
  • 高野 陽平(British Antarctic Survey)「Networking, International Collaborations, and Outreach: Perspectives from In Person and Online Activities」
    • 国際的な共同研究を築いてきた米国、ドイツ、英国での留学経験から、サマースクールや国際会議が人脈を広げる上で非常に重要であったと強調しました。現在は、Discordのようなオンラインプラットフォームを活用した学習グループを通じて、若手研究者がメンターとつながるためのサポートに注力していると述べました。
  • 堀 利栄(愛媛大学)「Across boundaries for borderless geoscience world- an attempt from Japan」
    • 地質学者・古生物学者としての経験から、研究者が直面する言語の壁について語りました。JpGU主催のシンポジウムでAI翻訳システムを試した結果、人間の通訳ほどの精度ではないものの、その将来性を示唆しました。また、言語や文化の壁を低減するためには、キャリアの早い段階で多様な背景を持つ仲間と学ぶことが大切であると提言しました。
  • Gonghui Wang(京都大学)「Progress in Risk Cognition and Reduction for Catastrophic Landslides: Bridging Science, Communication, and Global Collaboration」
    • 気候変動や地震によって重要性が増している地すべり研究に焦点を当て、中でもフィリピンでの事例を挙げ、地域住民が地すべりの前兆に気づきながらも、その警告サインを認識できなかったことから、知識をグローバルに共有することが災害予防につながると強調しました。
  • Mohammad Rajib(バングラデシュ)「Geoscience Field Trips in Japan: My Experience from Saitama University」
    • 奨学金で日本に留学した経験をもち、日本での地質学フィールドワークが非常に貴重な経験であったと語りました。バングラデシュでの地球科学教育の推進と、JpGUとの協力関係を模索していることを紹介し、地球科学が広大で国境のない分野であることを強調しました。
  • Wonsuh SONG(早稲田大学) 「Creating a Space to Overcome Cultural and Language Barriers in Education Through COIL」
    • 早稲田大学と米国セーラム州立大学のCOIL(Collaborative Online International Learning)プログラムの事例が紹介されました。日本の学生は米国の「個人主義」や「オープンな議論」を、米国の学生は日本の「規律」や「協調性」を学ぶ機会となりました。

パネルディスカッション

複数の登壇者が、国境を越えた科学の重要性と、その推進には学会間の連携が不可欠であると強調しました。また、国際的な研究環境をより良いものにするために、単に言語の壁を越えるだけでなく、文化的多様性に対する深い認識と教育が必要であるという共通の認識が示されました。この点において、AIなどの最新技術を活用した多言語コミュニケーションの可能性についても議論が及び、技術が言語の壁を低減する助けとなることが期待されます。

さらに、科学の国際化には、研究者一人ひとりの意識も重要であることが指摘されました。言語と行動は密接に関連しているという考えのもと、オープンサイエンスを推進することで国際協力が促進されるとの見解が示されました。そして何よりも、学生や聴衆が積極的に議論に参加し、対話を通じて学びを深めることの重要性が強調され、未来を担う若い世代の活発なコミュニケーションが、地球科学の国際的な発展を支える鍵となると締めくくられました。